ゲイな彼と札束
「働きたいの?」
「まあ、うん。あたしも18になったし、ここに落ち着くなら働けるかなって」
「仕事するにも、他にあるだろ」
呆れたような情けない声でそう言われると、無性に腹が立った。
「ないよ」
「あるよ。どうしてこういう方面に考えちゃうの?」
「どうしてって……」
それ以外できる気がしないから。
すでに3年以上も体で命を繋いできたあたしには、あまり抵抗もないから。
「俺がいるし、金に困ってるわけじゃないでしょ。もっと昼間の、普通の仕事にしなよ。バイトだっていいじゃん」
「普通って何だよ」
水商売や風俗業をバカにして、何様だ。
自分は得体の知れない元彼に養ってもらってる学生のくせに。
そんなに昼の仕事が偉いのか。
そんなに夜の仕事は凡愚か。
「コンビニ店員とか、事務スタッフとか、いろいろあるだろ」
わかってねーな、この甘ちゃんが。
普通のバイトなんて、できたらとっくにやってるよ。
「あたしは家出した身だから、身分が証明できない。証明できないから、ちゃんとしたところには雇ってもらえない」
マモルが黙った。
身分にやましいことのない彼には想像もつかなかったのだろう。
「つーかあたしがどんな仕事に就こうが、お前には関係ないだろ。仕事くらい、好きに選ばせろ」
掴まれた腕を振りきろうとしたが、こいつはガッチリ掴んで放さない。
ひょろいくせに、男なりの握力は持ち合わせているらしい。
「サエ、それ本気で言ってる?」
「はぁ?」
マモルの指がミシミシと二の腕に食い込んでいく感覚が腹立たしい。
いっちょ前に説教でも垂れる気だな。
ナメられてたまるかよ。