ゲイな彼と札束
「いいんだよ、それで。今までカタギじゃない世界なんて腐るほど見てきたし、危ない奴らのおかげであたしは生きられた」
運び屋をやらされた男だって、そういう組織で取り立て屋をしてる男だって、ほぼチンピラのタケシだって。
酷い男たちだった。
でも、あたしに飯を食わせてくれたし、暖かい寝床を提供してくれたし、服を買ってくれることもあった。
痛い思いをするのは、生きるための代償だ。
「サエ……」
「あたしの人生背負う気もないくせに、知ったような口聞くな」
ゲイだけれど愛された過去のあるマモルなんかに、口出しされたくない。
睨み続けるあたしの視線とマモルの冷ややかな視線が静かにぶつかる。
次の瞬間、彼のものとは思えない言葉があたしの胸を貫いた。
「俺、女の子を殴りたいなんて思ったこと一度もなかったけど、今理解した」
脳が体に危険信号を発するようにキンと頭が冷え、ボッと鳥肌が立った。
マモルは、マモルだけは、あたしを殴ったりしないと信じていたのに。
ああ、そうかよ。
殴りたいかよ。
「殴れよ、好きなだけ」