ゲイな彼と札束
どうぞ、と両手を広げる。
タケシのようなマッチョなら怖いが、マモル程度の優男に殴られたくらいでへこたれてたまるか。
そんなヤワな人生、送ってない。
秘めていた淡い恋心とか、感謝してた気持ちとか、一瞬、全部吹っ飛んだ。
あたしは怒りに支配されるタイプだ。
周りが全く見えなくなり、相手を罵倒したりバカにしたり怒らせることで怒りを発散したくなる。
そうしてつい相手の怒りを煽ってしまうから、殴られてしまうのは自明の理なのかもしれない。
マモルはあたしの両手首を取り、強く壁に押し付けた。
痛い。
力いっぱい抗うが、離れられない。
「サエって、自分が俺より強いと思ってるだろ。負けないって信じてるだろ」
女だと思ってバカにしやがって。
悔しさは増す。
でもマモルの言うとおりだった。
現に今、マモルの手から抜け出すこともできないのに、どこかで勝てると……負けないと信じている。
「うるせーな」
「その言い方。その性格。人として問題があるって気付きなよ」
真っ当なマモルの言い分から逃れたくて、あたしは懸命にもがく。
だけど全然ダメだった。
「わかる? サエは自分が思ってるより、ずっと弱いんだよ」