ゲイな彼と札束
認めたくない。
自分が弱いなんて。
こんな優男にさえ負けてしまうなんて。
「お前が思ってるほど弱くもねーし」
遺伝子的に力では勝てないが、喧嘩のイロハは心得ている。
性病をうつされたことはあったけど、体だって丈夫だ。
マモルは怒った顔のまま告げる。
「サエは女の子なんだから、俺に守られてればいいんだよ」
「……は?」
「俺はまだ頼りないかもしれないけど、サエは頑張らなくていい」
「なんだよ、それ」
力が抜けた。
マモルがあたしの手首から手を離す。
マモルはたまに、あたしが言われたことのないことを、さも当たり前のように言う。
「言ったじゃん。ゆっくりしてなって」
「でも」
「いいから、今は俺のために、この部屋で自由に暮らしてなよ」
「でも……っ」
「社会に出るつもりなら、ちゃんと二人で解決しよう。お父さんに知られずに身分証明する方法がないか、俺も調べてみるから」
何なんだよ。
殴りたいんじゃなかったのかよ。
マモルが真剣にそう言うから、あたしは壁をズルズル伝ってへたり込んだ。