ゲイな彼と札束

「バカじゃねーの。あたしなんかのためにお前が頑張るんじゃねーよ」

弱々しい口調になったのは、泣きそうになったからだ。

ここで泣いたら自分の弱さをこいつに晒すことになる。

前にも一度泣き顔を見られてしまったが、もう二度と見せたくない。

「あたし“なんか”って言うなよ。サエはちょっと気性が荒いし言葉遣いも悪いけど、可愛い女の子だよ」

可愛いって、また勘違いさせる気か。

もう騙されない。

「好きでもない女にそんなこと言うな」

「だって本当のことだし。守るべきものができたから、俺は立ち直れた。サエのことはちゃんと好き」

「嘘つけ。失恋引きずってメソメソして、全然立ち直ってないじゃんか」

「そんなことないよ。サエのおかげで、最近毎日楽しいし」

「はぁ?」

あたしが一体何をしたというのか。

もう聞き返すのはやめよう。

否定したって口で敵う相手じゃないこともわかったし、捨て身で言いたいだけ言っても、マモルは必ずあたしの痛いところを指摘してくる。

怒っても殴ったり蹴ったりしない。

頭の出来も人間としての出来も、マモルの方がはるかに上だ。

初めて会ったときは死にそうな顔をしていたくせに、確かに最近はイキイキしているような気がする。

立ち直っているといえば、立ち直っているのかもしれない。

それがあたしのお陰だとは、微塵も思えないけれど。

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