ゲイな彼と札束
「コーヒー入れるよ。髪、乾かしておいで」
「……うん」
あたしはよろよろと洗面台に向かい、ドライヤーを抱えて鏡に映る自分を眺めた。
描くことを前提として多くを抜き去った貧相な眉。
人を威嚇するために睨み慣れた目。
タバコのせいで血色の悪い肌。
美容院代をケチるために自分で色を抜き、伸ばしっぱなしにしている痛んだ髪。
腕や脚には今でも消えない古いアザが残っている。
初めて自分が弱々しく見える。
マモルにはどう映っているのだろうか。
これのどこが可愛いのか理解できない。
かつてあたしを可愛いと言ったのは、処女を売ったオヤジや、世話になったオタク系の男、それからヘルスのスカウトの男くらいだ。
奴等が見ていたのはあたしではなく、制服と処女膜、コスプレ衣装とツインテールに結った髪、売上金とノルマだ。
マモルが見ているのは、きっと高田真之介と、彼との契約に違いない。
ドライヤーの温風で髪を煽り、乾くまで15分。
あたしがリビングに戻ったタイミングで、マモルはカップに熱いコーヒーを入れた。
重い空気をエアコンの冷風が散らす。
あたしはいつものように狭いソファーの左に座ると、マモルが散らかったテーブルにカップをコトリ。
そして、右に腰を下ろした。