ゲイな彼と札束
「ま、本当は就職、決まってたんだけどね」
マモルがどことなく哀愁を含む小さな声で呟いた。
「え、そうなの? どんな会社?」
「テレビ番組の制作会社」
テレビ業界? 意外だ。
でも、こういうひょろひょろしたADが、たまにテレビに出ているのを見る。
マモルもそこからキャリアを積んで、いつかプロデューサーとかになるつもりなのだろうか。
うん、それはそれで見てみたい。
「じゃあそこでいいじゃん」
マモルは首を横に振った。
「内定を取り消された。そこでバイトだってしてたのに、ツイてないよね」
「何か悪いことでもやらかした?」
マモルは肯定とも否定ともとれる笑いを漏らす。
そして男のくせに細長い指を、ふわっとテレビに向けた。
「あの人のためだよ」
指す先にはにっこり笑ったジョージが映っている。
「ジョージのため?」
「そう」
マモルは再びカップを持ち上げ、ゆっくり背もたれに体を沈めた。
「あれが、シンさん」
シンさん。
高田真之介。
「ジョージが……高田真之介?」
「そう。松島ジョージは芸名だよ」
何をしているかは知らなかったが、元カレが金持ちだということはわかっていた。
松島ジョージ。
高田真之介。
本名完全無視の芸名だが、耳慣れているからか、松島ジョージの方が似合っている気がする。
マモルは本当に、こんな大物俳優と付き合っていたというのか。
にわかに信じられない。
だけど、元カレがジョージだと考えたら、これまで不思議に思っていたことの辻褄がどんどん合う。
広く顔の知られた一流芸能人なら、いい年したジョージであっても、男との恋愛なんてダメージの大きいスキャンダルだ。
「でっ……でも、どうしてジョージのために就職がダメになったんだよ」
「簡単な話さ。俺とのことが週刊誌にバレたんだ」