ゲイな彼と札束

サイトの人によると、郵便局に「瀬戸冴がこの部屋に住んでる」という登録がないものだから、届けられないらしい。

今まで通販なんてしたことがなかったし、郵便物なんて届くこともなかったから、盲点だった。

「じゃあ今日中に郵便局で手続きするんで、もう一回送ってください」

『かしこまりました。よろしくお願いします』

電話を切ってすぐに着替え、家を出た。

キツい日差しを浴びながらたどり着いた郵便局。

制服を着たおばちゃんに住所登録の紙をもらい、ボールペンを握る。

用紙には「旧住所」を記入する欄があった。

「旧住所って書かなきゃダメですか?」

「そうですね。もう住んでないのでしたらご記入ください」

15年住んでいた住所は3年程度では忘れられない。

あたしは今でも親父が住んでいるであろう住所を記入した。

そして、新しい住所も。

……でも、大丈夫だろうか。

「これって、今この住所に住んでる人に、あたしの住所バレたりしませんよね?」

「お客様宛ての郵便物を新しい住所に転送するだけですから、今お住まいの方に知られることはありませんよ」

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