ゲイな彼と札束
「ただいま、サエ」
マモルが帰宅したのは、日が傾きかけた頃だった。
「おかえりー」
最近、マモルはよく笑うようになった。
テレビでジョージを見ても、捨て犬みたいな顔にはならない。
どんどん吹っ切れていくマモルを見ていると、何も成長していない自分が虚しくなってくる。
ただ毎日ダラダラ過ごして、気が向けば選択や掃除をするだけ。
「ご飯買ってきたよ。一緒に食べよう」
「うん」
あたしは毎日、優しくしてくれるマモルに甘えてばかりだ。
いつまでもここにいて、このままマモルと家族のようになっていくのだろうか。
きっと普通じゃない。
でも、片親一人っ子のあたしにとっては夫婦も兄弟も未知のものだから、そのどちらでもないマモルとの関係だって違和感はない。
ぼんやり考えながら飯を突いていると、マモルが突然こんなことを言い出した。
「ねぇ聞いて。俺今日、デートに誘われちゃった」
突然の話題に、あたしは口に入れた鶏のから揚げを噴き出しそうになってしまった。
デートって! マジか!
家族になるイメージから一変、好きな人ができたからと捨てられるイメージへ。
「男?」
「ううん、女の子」
ホッとしたけれど、焦りは消えない。
だって、マモルがあたし以外の女に興味を持ったら、あたしはただの邪魔者だ。
「……で?」
「同棲してる彼女がいるからって断った」
ニコッと微笑むマモル。
その笑顔の眩しさに、胸がまたキュンと苦しくなる。
彼女って、あたしのことだよな。
「あっそ」
ふん、誰が喜んでやるか。
男なら誘いに乗ったんだろ、どうせ。