ゲイな彼と札束
マモルはこれまでの記憶を掘り起こすように視線を上にあげた。
「基本はお互いの部屋かな。くっつくときはやっぱ人目を避けなきゃいけないし」
「くっつくって……」
確かに、あまり見たい光景ではないけれど。
「中には開き直って外でもイチャイチャする同志もいるけど、それって世間的には不快な光景だろうから。俺は好奇の目で見られるのは怖いし、開き直れない」
そうか、そうだよな。
好奇の目で見られる辛さなら、あたしだってよくわかっている。
マモルと出会った日だって、膝から血を流し腕や顔にアザを作った異常な私の様子に、世間の視線は容赦なく刺さっていた。
「男同士だから、滅多におしゃれなレストランとかロマンチックな場所には行かないな。普通に居酒屋とかラーメン屋で飯食って、酒飲んで。で、部屋って感じ」
「ホントに色気ないんだな」
そんなの、普通の友達同士みたいだ。
もちろん部屋ではイチャイチャしたりするんだろうけど。
「だね。男女の恋愛って、女の子の行きたいところとか、食べたいものとか、プレゼントとか、難しいよね。期限損ねると怖いしさ。ノーマルの男ってスゴいなー」
男同士なら大体考えも合ってるから、苦労して考えなくてもいいってこと?
あたしはノーマルだけど、まともな恋愛なんてほとんどしたことがないから、普通に生きて普通に恋愛している女はスゴいと思う。
そういう女は、きっと心も体もキレイなのだろう。
あたしは心も体もあちこち腐っているから、もしかしたら今後一生、愛し愛されることなんてないかもしれない。
「で、どこ行きたい?」
目をキラキラさせて話題を戻したマモル。
「そんなにデートがしたいの?」
「うん。俺たちも何か思い出を残したいじゃん」
思い出って……なんだかな。
いつかマモルと離れたとき、その思い出がきっとあたしの未練になる。