ゲイな彼と札束
あたしの気も知らないで軽々しく誘ってくるマモルは、もしかしたら天然の女たらしなのかもしれない。
笑顔や優しさを振り撒いて、勘違いさせる悪い癖がある。
自覚がないだけに、タチが悪い。
「いいよ。しようか、デート」
無邪気に喜んだマモルに、あたしはあたしなりの意地悪を吹っかけることにした。
「手繋いで、ホテルに泊まるなら」
「ホテル?」
「ラブホテル。男女デートの定番だろ」
「じゃあ泊まろうか」
「えっ?」と、自分で誘っておいて思わず聞き返しそうになった。
この男、とぼけた顔をしているが、どういう意味で承諾したのだろう。
女のあたしに、興味を持っーー
「俺、ラブホって入ったことないんだよねー。なんか楽しみ」
なんだよそういうことかよ。
期待して損した。
観光じゃないんだからさ。
「じゃあ、明日は早起きしなきゃね」
「明日? 急だなおい」
「いいじゃん、ヒマでしょ?」
学生でも働いてもいないんだからヒマだけど。
全然オンナゴコロがわかってない。
心の準備とか体の準備とか、着ていくものの準備っつーのがあるんだよ。