†Dragon Guardian†
そこには、鬱蒼とした山
山と竹林を背にする純和
風のさびれた旅館と一際
目を引く壊れかけの巨大
な看板が、あたかも夏の
うだるような暑さを忘れ
させるかの如くひっそり
と佇んでいた。
「“来訪前より美しく”
って何だあの看板!?一体
どこまで人をおちょくれ
ば気が済むんだよ!?」
「あ~それでジャージと
雑巾ね、納得。旅行先で
も掃除するなんてまるで
林間学校並みだわ」
そうして口々に不満を漏
らす壱加と紗奈恵をなだ
めようと、弥嘉は旅行前
の朧気な記憶の糸を必死
に辿っていった。
「で、ですが明日は一日
中市内をタクシーで回れ
るはずですからそこまで
気を落とされずに……」
「――お金の使い方が極
端というか何というか」
「つーか市内だあ!?こん
な山ばっかの所で何を見
りゃ良いってんだよ!?」
しかしながらその説得を
受けても尚辛辣な言葉が
飛び交う中、翠は急に大
きく目を見開くなり素っ
頓狂な声を上げた。
「――――あっ!!」
「……み、翠さん?如何
されました?」
その声があまりにも突然
且つ大音量だったため、
弥嘉は驚きながらも恐る
恐る翠の顔を覗き込む。