†Dragon Guardian†
それを知ってか知らずか
翠は、無言のまま弥嘉に
微笑みかけると急激に速
度を上げて歩き出した。
その些か突然すぎる変化
に戸惑いながらも、弥嘉
は翠に応えるように必死
になってついて行った。
「MIHARU……ですか?」
「――ええ、間違いじゃ
ないわ。あっちでは専ら
その名を使ってるから」
「何故そのような……」
「本名で活動してると、
時折ストーカー化する過
激なファンの対応がやた
らと面倒になるのよね。
ほら私、自分で言うのも
難だけど相当美人な部類
に入るでしょ?」
そうして、振り向きざま
にウィンクをかます翠に
どことなく違和感を覚え
顔をしかめるも、弥嘉は
本来ならば次に続いたで
あろう言葉を飲み込み深
深と頭を下げた。
「……差し出がましい事
を申し上げました、本当
にすみません」
すると、翠は意外とばか
りに一瞬目を見開いたも
のの終いには表情を緩め
力なく笑い始めた。
「あら?そう簡単には騙
されてくれないのね?」
“流石弥嘉ちゃんだわ”
とどこか寂しげにそう一
言語尾に付け加えると、
翠は再び弥嘉へと向き直
り真っ正面を見据えた。
「実はこれ、3年前に亡く
なった姉のものなのよ」
パーク内の至る所に植え
られた向日葵ですらあま
りの蒸し暑さに覇気を失
いうなだれる中、それと
は対照的に実に色味のな
い声で紡がれる冷え切っ
た空気だけが2人の間を残
酷に流れていった。