†Dragon Guardian†

ところが、暫くすると弥
嘉は頭を垂れて蚊の鳴く
ような声で囁き始めた。


「“翠さん”……は?」

「――――えっ?」

「そのような事を続けら
れて、翠さん自身は一体
どうなるのですか?私生
活でもMIHARUさんを演じ
られているなんて……」


弥嘉はそう言い終わらな
いうちにいよいよ感極ま
ったのか、見る間に涙腺
を崩壊させると両手の平
で視界を覆い尽くした。


「“身代わり”は、自分
が自分でいられないのは
……辛い、辛すぎます」


あたかも自身を投影する
かの如く鬼気迫った発言
に翠はほんの一瞬目を丸
くするが、その後はさし
て慌てることなく言葉を
紡いでいった。


「――弥嘉ちゃん、何で
私がいつも紗奈恵につっ
かかるのか分かる?」

「えっと……お伺いして
も宜しいのですか?」


急遽話題が移り若干戸惑
いを覚えながらも顔を上
げる弥嘉に対して、一方
の翠は思わず見惚れてし
まうほどの綺麗な弧を口
元へと描いていく。


「悔しかったのよ、あの
子に負けるのが。だって
私と張り合えるくらいの
ビジュアルをしてるのに
……ちょっとは高飛車な
所があってもおかしくな
いはずなのに全然スレて
ないんですもの。そんな
の面白くないじゃない」


表面上ではつらつらと不
満を述べるも未だ笑みを
崩さない翠に、弥嘉はど
こか神妙な面持ちで目線
を向けるだけだった。
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