美人薄命


彼が指を指したのはレザーの椅子。

初めてこの店で座った椅子だった。


「えっ?こ、これ売り物じゃないって…」


「売り物じゃねーけどお前に持っててほしいから。」


「な、何で?」


「それ俺が初めて自信作って思え椅子なんだ。」


「そんな大事なものなら尚更っ」


私の話しを遮って春人くんは話しを続ける。


「けど自信なくなった。前に話しただろ?椅子造るの好きだったのに造れなくなった。」


私がプレゼン失敗して此処で泣いた日、春人くんが話してくれた事を思い出す。


"俺も椅子造るの自信無くしてたんだけど…けどたった一人の言葉で自分のこと信じれた。"



「初めてお前がこの椅子に座って買いたいって言ってくれた時、また椅子が造りたくなった。」


「私?」


「そう。だからこの椅子は俺の原点。
そう思わせてくれたお前に持っててほしい。」



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