‡月と野良犬‡
公園を歩いていると、ベンチに座っている赤い顔の男のヒトがフラフラしながら、私に食べ物をくれた。
「わんちゃん、腹減ったのか。これやるよ」
男のヒトは、パンを一切れ私に差し出す。臭うと少しくさかった。
でも私は喜んで食らいつく。
「おお。美味いか!俺は今日は飲みすぎで遅くなってしまったからなぁ。今晩だけここに泊まるな」
聞いてもいないのに、ペラペラ身の上話をする。
暇つぶしに私は聞く。
眠そうな目がうつらうつらとしている。
男のヒトは私を「汚い」とは言わなかった。
この暗い今に感謝した。
そして気づいたら、男のヒトは眠っていた。
私は、その後また歩き出した。男女のカップルの横を通りすぎ、噴水の水溜まりで顔を洗う。
水面に浮かぶ貴方も美しい。
毎日毎日、顔を洗っても私は汚い野良犬だった。
「ねぇ。どうしたら貴方に近づける?」
冷たい風が濡れた毛にあたる。
「私は…」
時間が経つにつれて貴方は動いて沈んでいく。
それと同時に空は明るくなろうとする。
「さよなら。おやすみ」
貴方は明るい世界と入れ替わり消えていく。
私は貴方に恋をする。
貴方は遠い遠い空に浮かぶ金色の光。