楽描屋ーラクガキヤー
 しかも、実は楽描屋には悪い噂も少なからず存在しており、公の機関からはお尋ね者に近い扱いを受ける事もしばしばあるため、彼女達は同じ土地に長く留まらない。
 創作物以外の痕跡はほとんど残さずに去っていくため、楽描屋の素性を知る者は非常に少ないのだった。
 だからこそ、久しぶりに大物から依頼が来た事は、路銀が尽きかけていたユウナにとっては天の助けのように感じた物であり、そうかと思えば人違いと来たものだ。
 しかし、それも仕方の無い事。
 ユージンが楽描屋の調査を依頼したのが、情報屋か探偵かまではユウナには分からないが、調査した人物がもめとユウナに辿り着いても、この天真爛漫な幼児の方が楽描屋だとは、夢にも思うまい。
 とはいえ、過去に何度か同じような事があった事を加味しても、やはり面と向かって人違いだったと言われると、ユウナもショックを受けざるを得なかった。
 意思とは関係無く、彼女の両肩はがっくりと落ちる。
「はは……この子が、かの噂に名高い楽描屋か。ユウナ君でさえ私が想像していたよりもだいぶ若くて驚いたと言うのに、まさかこちらの幼児の方が楽描屋だったとはね。ははは……」
 そして、脱力しているのはユージンの方も同じだった。
 見た所、もめの年齢は四歳か五歳程度。
 そんな子供が、今や伝説と化している楽描屋だと言われ、はたして素直に信じられるだろうか?
「……いや、信じられないな」
 無論、彼の判断は常識的な物だった。
「もしかして、君は私をからかっているのか? それとも、本物の楽描屋は今日は何か理由があって、ここに来ていないとか──」
「多少の人違いはあったにしろ、僕達の事をしっかり調査されたのなら、僕がもーちゃんと二人で旅してた事は知ってるですよね?」
「む、しかし」
「信じられない気持ちも分かるです。けど、もーちゃんは正真正銘の楽描屋ですよ」
 人違いが初めてでない事が幸か不幸かは別として、これと似たシチュエーションに何度か遭遇した事のあるユウナは、そろそろ落ち着きを取り戻し始めたようだった。
 たとえ依頼が彼女ではなくもめの方に入ったとしても、もめはユウナの助けが無ければ不可解な絵しか描く事が出来ないし、報酬だって全て二人の旅費に消えてしまうのだ。
 なら、どちらが仕事を引き受けたって同じ事。
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