楽描屋ーラクガキヤー
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 夕日と同じ朱色に染まった自室で、金の装飾が施された豪華な窓から外を眺めながら、エイダは溜息を漏らしていた。
 胸には一枚の絵。
 もめが残していった、ユージンの肖像画の失敗作が抱かれている。
 見れば見るほど不思議な絵だった。
 瓶詰めにされている姿が、彼女自身の姿とダブる。
 外出を禁じられているこの身は、他の人からはきっとこんな風に見えることだろう──絵を見つめながら、エイダは何となくそう思うのだった。
 ガラスを一枚隔てたその外は、とても広く、どこまでも自由な世界であるに違いない。
 会食の時にもめから聞いた外界の話は、彼女にとっては未知の世界でありながら、少しだけ頑張れば手に入るような、そんな身近さも感じられたものだ。
 宝石商として成功して以来、ユージンは変わってしまった。
 彼は娘であるエイダとは話をしなくなり、彼女の世話は使用人達に任せきりである。
 彼女は毎日上等な洋服で美しく着飾られ、部屋も豪華な調度で装飾され、上流貴族かそれすらも上回るほどの待遇を受けていた。
 にも関わらず、エイダは貧しかった頃の夢を、毎晩毎晩繰り返し見るのだ。
 それもそのはず。
 今の彼女には、一切の自由が無かった。
 館の敷地から出る事は許されず、与えられた自室から出ただけで、ユージンは苦虫を噛み潰したような顔をするのである。
 外へ出たいとどんなに頼み込んでも、ユージンは聞く耳を持ってはくれないのだ。
 どんな我が儘も聞いてくれる使用人達ですら、エイダの外出の試みにだけは、ユージンの言い付け通りに決して見逃してはくれない。
 二十四時間、護衛という名の監視が付いているため、彼女が企てた家出計画は、ことごとく失敗に終わっているのだった。
 エイダはもう一度だけ溜息を吐き、父の肖像画を称する瓶詰めの少女の絵を眺める。
 何故もめは──楽描屋の少女は、こんな絵を描いたのだろうか。
 どれだけ考えても漠然とした違和感を感じるばかりで、彼女はその真意に到達する事は無かった。
 結局エイダは、これが分かるかどうかが凡人と天才の差なのかと納得し、思考する事を諦める。
 額縁にも入れていない素っ裸の絵を豪華なテーブルの上に置き、彼女は代わりにポケットから小さな巾着袋を取り出した。
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