楽描屋ーラクガキヤー
これはもめが持ち込んだ、言うなれば外の物。
館の中には、父ユージンが用意した物以外で〝外〟を感じさせる物が存在しない。
それはエイダが外界へ憧れぬように、と配慮しての事である事くらいは容易に想像が出来る。
もめが外界から持ち込んだ携帯食料を散らかした時、ユージンが物凄い剣幕で怒鳴りつけていたのも、きっと同じ理由なのだろう。
きっとこのお守りも、彼に見つかったら取り上げられてしまうに違いない。
エイダは変わってしまった父の姿に悲しみを覚え、お守りをぎゅっと握り締めた。
お守り──もめは、願いを叶える〝かもしれない〟お守りだ、みたいな事を言っていた。
館の外に出て町で自由を満喫したい。
友達をたくさん作って皆で遊びたい。
ユージンを元の優しい父に戻したい。
彼女が望む事は沢山あった。
数え始めたら、きりが無いほどあった。
しかし、彼女はそれらを口にはしない。
どれも望みはしても、エイダが我慢さえすれば誰も嫌な思いをしなくても済む程度の事だからである。
だから彼女は、一つだけ願い事を口にした。
それは、我慢する事では解決しない、たった一つの事──
『なんだ、そんなことでいいのか。いいぞ。私が力をかしてやる』
突然、少女の声が聞こえた。
慌てたエイダは、わあと叫んで巾着袋を投げ出す。
声は袋の中から聞こえてきたように感じたからだ。
続けて、少しくぐもった──しかし、聞き覚えのある声が袋の中から聞こえてきた。
『もーちゃん? 何か言った?』
『エイダがこまってる。私はいくぞ』
『行く? え、ちょっと……エイダって、あの宝石王さんの娘さん? ああ、もーちゃんちょっと待って! 少しくらい説明してよっ!』
声は、それっきり何も言わなくなった。
稀にざらざらしたノイズを発しながらも、お守り袋は沈黙を保っている。
これはどういう事だろうか、とエイダは不思議そうにお守りを拾い上げた。
あの声は、確かにもめとユウナの声だった。
久しぶりの来客の声だ、外の世界に恋焦がれるエイダが、忘れたり聞き違ったりするはずがない──と言うか、ユウナと思しき声は明らかに〝もーちゃん〟と言っていたし。
館の中には、父ユージンが用意した物以外で〝外〟を感じさせる物が存在しない。
それはエイダが外界へ憧れぬように、と配慮しての事である事くらいは容易に想像が出来る。
もめが外界から持ち込んだ携帯食料を散らかした時、ユージンが物凄い剣幕で怒鳴りつけていたのも、きっと同じ理由なのだろう。
きっとこのお守りも、彼に見つかったら取り上げられてしまうに違いない。
エイダは変わってしまった父の姿に悲しみを覚え、お守りをぎゅっと握り締めた。
お守り──もめは、願いを叶える〝かもしれない〟お守りだ、みたいな事を言っていた。
館の外に出て町で自由を満喫したい。
友達をたくさん作って皆で遊びたい。
ユージンを元の優しい父に戻したい。
彼女が望む事は沢山あった。
数え始めたら、きりが無いほどあった。
しかし、彼女はそれらを口にはしない。
どれも望みはしても、エイダが我慢さえすれば誰も嫌な思いをしなくても済む程度の事だからである。
だから彼女は、一つだけ願い事を口にした。
それは、我慢する事では解決しない、たった一つの事──
『なんだ、そんなことでいいのか。いいぞ。私が力をかしてやる』
突然、少女の声が聞こえた。
慌てたエイダは、わあと叫んで巾着袋を投げ出す。
声は袋の中から聞こえてきたように感じたからだ。
続けて、少しくぐもった──しかし、聞き覚えのある声が袋の中から聞こえてきた。
『もーちゃん? 何か言った?』
『エイダがこまってる。私はいくぞ』
『行く? え、ちょっと……エイダって、あの宝石王さんの娘さん? ああ、もーちゃんちょっと待って! 少しくらい説明してよっ!』
声は、それっきり何も言わなくなった。
稀にざらざらしたノイズを発しながらも、お守り袋は沈黙を保っている。
これはどういう事だろうか、とエイダは不思議そうにお守りを拾い上げた。
あの声は、確かにもめとユウナの声だった。
久しぶりの来客の声だ、外の世界に恋焦がれるエイダが、忘れたり聞き違ったりするはずがない──と言うか、ユウナと思しき声は明らかに〝もーちゃん〟と言っていたし。