楽描屋ーラクガキヤー
 そして、もめはエイダの元へ向かうと言っていた。
 この館へ、再び来るというのだ。
 友達が困っているから、という理由で。
 ただそれだけの理由でだ。
 しかも、知り合ったばかりの自分の為にだなんて。
 エイダともめは、倍以上も年が離れているであろうというのに。
 もしも二人が再び館に現れれば、間違いなくユージンの逆鱗に触れるであろう事は、エイダにとって想像に難くない。
 二人がどんな仕打ちを受けるか、考えただけでも不安に胸が押し潰されそうになる。
 けれど、ユージンが変わってしまってからは全く友達ができなかった彼女にとって、二人の来訪が嬉しくて仕方が無くもあるのだ。
「もめちゃん……」
 板挟みの気持ちに揺れながら、彼女は拾い上げたお守りをポケットの中へと仕舞い、再び窓の外へと視線を移した。
 日が暮れていく様を眺めながら、エイダはお守りから聞こえた言葉を信じて、ただただじっと二人が姿を現すのを待ち続ける。
 どれくらいの時間、そうしていただろうか……
 結局。
 太陽が空の覇権を月に譲り渡す頃合いになっても、二人が館の前に現れる事は無かった。
 それでも不安そうな表情を浮かべた深窓の令嬢は、窓際から離れる気配を見せなかった。
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