楽描屋ーラクガキヤー
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「……っ」
 気がつくと、外は既に暗闇で包まれていた。
 いつの間にか、エイダは窓の外を見つめながら居眠りをしていたらしい。
 手鏡を覗けば、寝ぼけ眼な金髪の少女が目をこすっていた。
 頬には滑稽な赤い横筋が一本走っている。
 窓の桟の跡だろう。
 彼女は手鏡を仕舞い、もう一度窓の外をあらためた。
 時間帯はとっくに夜。
 とはいえ、街頭や店、民家などの明かりのお陰で、街はそれほど暗い印象が無い。
 月と星の明かりなどものともしない強い光で照らされた窓の外は、何度眺めても彼女にとっては触れたくとも触れられない幻想世界である。
 少し奥まった裏路地へ入れば、そこは無法者のたむろする危険地帯となっている、という話は使用人達から聞いた事があったが、しかし館から出られない彼女にとっては関係の無い問題だった。
 ……こつん。
 微かな音と振動が、エイダの意識を現実へと引き戻す。
 そこで、再び窓がこつんと音を鳴らした。
 彼女が目を覚ましたのも、きっとこの音が原因なのだろう。
 庭の木を見た限りでは、別に風が強いというわけではないらしい。
 かといって、雨が降っているわけでもないらしい。
 不審に思って窓を開け、首を出してみると──
 ひゅんっ。
 緩やかなカーブを描きながら、小石がこめかみの側をかすめて飛んでいった。
 それは絨毯の上に落下し、ぼすん、と音をたてる。
 あまりの出来事に、エイダは声を上げるタイミングすら逸してしまっていた。
 小石には勢いこそあまり無かったものの、彼女の心臓は狂ったように暴れ回っている。
 ……大丈夫、当たってはいない。
 室内に首を引っ込め、両手で顔に触れてみるが、怪我はもちろん痛む部分は無いようだ。
 ホッとした彼女は跳ね回る心臓を少しだけ落ち着け、カーテンで顔を庇いながら再び外の様子を見てみる事にした。
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