楽描屋ーラクガキヤー
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「ちょっと、もーちゃん! お行儀が悪いですよ! そんなに急いで食べなくても、お料理は逃げたりしないです!」
「あったかいゴハンは逃げるぞ。さめたゴハンはおいしくない」
 そんなやりとりを眺めながら、エイダはくすりと笑みを漏らした。
 エイダ=フォード。
 ユージンの一人娘であり、歳は隣で騒ぐユウナと同じ、十五歳。
 しかし、エイダの髪が輝かんばかりの金髪であるのに対し、ユウナは漆を流したような艶のある黒髪。
 服装も対照的で、明るい配色のドレスを纏うエイダに対し、ユウナは黒のシャツに濃紫のワンピースという飾り気の無い物。
 表情も、エイダはどこか一歩引いた臆病さのような物を滲ませているのに対し、ユウナは表情豊かにその更に隣に腰掛け料理を頬張る少女の面倒を見つつ、怒ったり笑ったりを繰り返している。
 何もかもがエイダと異なるユウナを、彼女は羨望を込めた眼差しで見つめていた。
 無論、彼女の方はテーブルマナーを遵守し、行儀良く食事を摂りながら。
 テーブルマナーと言えば、エイダの二つ隣に座る少女。
 ……と言うか、幼児。
 食事中であるにも関わらず、赤髪の上にベレー帽を乗せ、大きな木の板を背負ったままの彼女は、ユウナの注意に対して舌っ足らずな口調で反論しながらも、物凄い勢いで料理を散らかしながら掻き込んでいる。
 さもありなん。
 聞けば、二人はある人物を探しながら世界中を旅しているというのだ。
 普段は保存性のよい携帯食料で過ごしているらしく、恐らくまともな料理にありつく事など久しぶりなのだろう。
 ベレー帽の少女にあれこれ言いながら、しかしユウナもきちんと食べている辺り、彼女もなかなかしっかりしている。
 十人以上の人間が席に着いても椅子が余るほど大きなテーブルの上には、まだ沢山の料理が並べられていた。
 全ては二人を歓迎する為に一流の料理人達に用意させた、特別な物である。
 不意にベレー帽の少女が席を立ち、エイダの隣の椅子へ腰を下ろす。
 ニパっと屈託の無い笑みを見せた彼女は、次の瞬間にはエイダの分のハンバーグに手を付けていた。
 ユウナが慌ててその首根っこを引っつかむが、時既に遅し。
 真ん丸のハンバーグは歯型を残した三日月型へと変貌しているのだった。
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