楽描屋ーラクガキヤー
「ああっ、ごめんなさいですっ! もーちゃん、もういい加減にしてくださいっ!」
「そんなにおこるな、ゴハンがまずくなる」
「〜〜〜〜っ!!」
 まるで反省の色を見せないベレー帽の少女に対し、ユウナは怒りに言葉を詰まらせ、次いでがっくりと肩を落としてしまう。
 どうやら諦めの境地に達したらしい。
 その様子をテーブルの対岸から見ていたユージンは、半ば呆れながらもハンバーグの追加を料理長に言い付けるのだった。
 彼が仕事から戻ったのは、二人が食事を始めて三十分ほど経った頃。
 その後、更にベレー帽の少女が食卓を荒らす事、約一時間。
 三人分のデザートを平らげた事でようやく満足したのか、彼女は今、エイダとの雑談を楽しんでいた。
 機を見ていたのか、ここでようやくユージンが本題を切り出してくる。
「さて、食事も半ばで申し訳がないのだが、そろそろビジネスの話に移りたいのだが、どうだろう」
 存分に豪華な料理を楽しみ、至福の表情を浮かべていたユウナは、その声でようやく我に返り、はいと答えた。
 服装を正し椅子に座り直すが、口元に付いた生クリームからは愛嬌が見受けられ、ユージンの表情もいくらか柔らかい物へと変わる。
「そんなに緊張しないでくれたまえ。君の活躍は、噂でではあるが聞き及んでいる。その歳で、世界中を旅しながら創作を行っているのだそうだな。私が君くらいの歳の頃は、何も考えず毎日を怠惰に過ごしていたものだ。君は称賛に値するよ」
「はあ、恐縮です……」
 本当に感心した風に漏らす彼は、遠い目をしながらも威厳のある風格を漂わせている。
 一方、相手が滅多にお目にかかれない大物中の大物たる宝石王という事で、ユウナの方はかなり緊張していた。
 何も、彼女達二人はユージンのコレクションを眺めに来たわけでも、豪華な料理を食べ散らかしに来たわけでもない。
 仕事で訪れたついでに、とんでもない規模の歓迎を受けた、それだけの事である。
 しかしこの歓迎のされ方は、ただことではない。
 ユージンはユウナの仕事に対してかなり期待している事が感じ取れ、それが余計に彼女の体を固くさせていた。
 ヘマだけは絶対に出来ない、とユウナは自分に言い聞かせる。
「そ、それで、依頼とは?」
 彼女の強張った声に苦笑しつつ、ユージンは口を開いた。
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