楽描屋ーラクガキヤー
「私のコレクションを見ただろう? あれは私の自慢の品々だ」
「ええ、とても素敵でした。創作意欲が刺激されます」
「そうかなあ、私はつまんなかったぞ」
 と、横からベレー帽の少女が、頬を膨らませて茶々を入れる。
 その物言いに対して僅かに眉を寄せたユージンは、しかし彼女くらいの歳ならばそう感じる事も仕方あるまいと思い直し、彼はそれを特に口には出さず、もう一度苦笑を浮かべた。
 大人である。
 代わりに彼は、ユウナに宝石に関する講釈を垂れ始めるのだった。
 ユウナは詩人として旅を続けており、彼の言葉の一つ一つが今回の仕事──つまり、創作活動の役に立つ可能性がある。
 彼女は時折メモを取りながら、宝石王の紡ぐ言葉に耳を傾けた。
 そんなユージン達の事など気にも留めず、ベレー帽の少女は満腹であるにも関わらず、再び綺麗な赤色のフルーツで飾られたデザートをつまむ。
 滅多にお目にかかれない珍味の数々に、彼女はかなりご機嫌な様子で、まだ知り合ったばかりのエイダとの会話も程よく弾んでいた。
「それよりも、このゴハンおいしかったな! コックさんには花マルあげるぞ! エイダは毎日こんなのをたべてるのか?」
「いえ、今日のお料理はお二人を歓迎する為に用意された物なので、普段はもう少しだけ簡素な物ですよ」
「すこしか! それもおいしそうだな!」
 くりくりとした大きな目を真ん丸に見開いて、ベレー帽の少女は大袈裟に驚きをアピールしてみせる。
 次いで彼女は、絵の具ともペンキともつかない物で汚れた服の内側をまさぐり、自分が持っている粗雑な携帯食料を取り出した。
「私たちのゴハンなんて、これだぞ。ひさしぶりにおいしいものが食べられて、生きかえったキブンだ」
「これは……食べ物なのですか?」
「そうだ。どれもすっごいマズいぞ」
 並べられた食料の数々を興味ありげに覗き込むエイダに対し、ベレー帽の少女は、塩辛いだけの干し肉、味のしないシリアルブロック、ボソボソした乾パン、お湯で戻すインスタント食品などの説明を始める。
「ながい旅には、くさりやすい物はもっていけないから」
「旅ですか……すごいですね。私はこのお屋敷が建ってから、まだ一度も敷地から出た事が無いので、ちょっとだけ羨ましいです」
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