側にいる誰かへ
亡くなった息子と同年代の俺の姿。

彼女の目に、俺はどう映っているのだろうか。

息子の親友が来てくれた事の喜びか?

それもと、亡くなった息子への執着か?

俺はここに来て良かったのだろうか?

彼女の悲しみを深くしただけでは?


徹の家は母子家庭で兄弟はいない。

一人息子を亡くしたこの人の悲しみは、きっと俺より遥かに大きい。

徹の事もあるが、何よりこの人の悲しみを想うと胸が痛んだ。


徹と彼女への複雑な想いが俺の中で交差する。


空気が痛い。

息ができないほどに。


俺はただ立ち尽くすしか無かった。


彼女は涙を拭い、俺の顔を見つめた。


「来てくれてありがとう。」

その瞳は何より優しく見えた。

昨日見た徹の瞳とは別の色…。

母親の優しさ…。

俺の頭にそんな言葉がよぎる。

彼女は俺を徹が眠る部屋に案内する。

今だに彼女の背中にかける言葉は見つからない。

彼女は立ち止まるとゆっくり障子を開いた。


家の奥にある八畳のこじんまりした和室。


部屋には仏壇、壁には見知らぬ男の人の顔写真がかけられている。


その部屋の真ん中に布団に横たわる人がいた。


顔に白い布を掛けられ誰かはわからない。

俺にとって誰かの死を見るのは初めてではない。

祖父や叔母。

身内で亡くなった人はいる。

でも、心から大切に想っていた人の死は初めての経験だった。


俺の胸には何の感情も込み上げてこない。

なぜだろう…。

悲しいはずなのに…。

辛いはずなのに…。


横たわるその人に、彼女はゆっくりと近づいていく。

「ほら。富塚君よ。徹あなたの一番の親友でしょ。だから起きて。」

彼女は徹の体を揺らしながら、悲鳴のような声で叫んでいる。

言葉が通じていると信じているのであろう…。

いつか起きてくると信じているのだろう…。

俺はどうすれば良い?

自分より悲しんでいる彼女の姿を見る事で俺の頭は思ったより冷静だったのかもしれない。


弱い奴を守ってやれ。

頭にはそんな誰かの声が響く。

今は一番に悲しむべき時だというのに…。
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