側にいる誰かへ
両者の睨み合いは続く。

俺は雅樹を見ながら思う。

こいつは強い。

それも特大に…。

こいつは俺と数多くの喧嘩をしてきた。

言うなら喧嘩のスペシャリスト。

膝や肘を平気で使ってくるし、それをくらえば一撃で終わってしまう。

俺はこいつを誰よりも近くで見てきた。

俺が背中を預けられる数少ない実力者。

俺との実力はほぼ互角。

力もスピードもほぼ互角。

下手な手をうてば秒殺される。

長期戦になるな。

きっと雅樹も同じ事を考えているのだろう。

しかし…、

それでは良くない。

俺は何十人と喧嘩した後、体力もかなり消耗している。

それに比べ雅樹は俺に一撃をもらったもののほぼダメージはない。

今は、俺の体力も心配ない。でも長期戦になれば、後半から否応なしに体力の差が出てくるだろう。

その差は勝敗を分けるもの。

つまり、俺は前に出て、短期勝負に挑むしかない。

無謀だとしても…。

ふ−。

俺はゆっくりと呼吸をする。

冷静に考えろ。

考えるんだ。

闘いを有利に進める可能性があるとするなら相手の心理を揺さぶる事。

心理戦か。

相手が冷静でなくなれば、攻撃は読みやすく、体力の消耗も激しくなる。

俺は心を決める。

俺はゆっくり体勢を前のめりにする。

今すぐ攻撃するとアピールするように。

雅樹は開いていた拳を握り込む。

状況からいえば俺は不利だ。

でもこんな状況を俺はいつも打破してきた。

その鍵となるのは、勇気。
行くぞ雅樹。

俺は勢いよく地面を蹴った。

雅樹の方に一直線に走る。

お互いが接着する刹那。

俺は雅樹に右ストレートを放つ。

それも特大の大振り。

雅樹はそれをすれすれで左にかわす。

ブン

俺は体がねじれるほどに体勢を崩す。

そんな俺に雅樹が左ストレートを合わせようとする。

だが雅樹の腕が止まる。

体勢を崩しながらも、俺の眼光が雅樹を捕らえていたからだ。

こいつ…。
わざとの空振り?
何かを狙ってるのか?

雅樹は後ろに跳んで距離をとる。

先はとったな。
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