側にいる誰かへ
俺は体勢を立て直すと一目散に雅樹に突っ込んで行った。

闘いとは気持ちのせめぎあい。

一度俺の攻撃で下がった雅樹は受けに転じるしかなかった。

俺はためらいなく、右のミドルをだす。

雅樹はそれを左の肘で受ける。

痛…。

雅樹の肘が足のスネにめり込む。

さすが雅樹、受けに転じても強い。

だが。

俺は痛みに耐え、なおも前に出る。

雅樹はさらに後退する。

こいつ前に出過ぎだろ。

雅樹の背中に何かがぶつかる。

壁?

そう。ここは狭い廊下。後退し続ければすぐに逃げ場はなくなる。

雅樹は教室の窓ガラスを背にしていた。

後は攻撃するしかない雅樹。

咄嗟の状況。

追い詰められた人間は無意識に自分の一番得意な事をする。

雅樹の得意技は右のストレート。

予想通り雅樹は俺に右ストレートを打つ。

俺はその拳を左手で跳ね上げ、雅樹のふところに入る。

「読んでたよ。」

俺は雅樹の顎におもいっきり右肘を跳ね上げた。

ガシャン

肘をくらった雅樹は窓をぶち破り、教室の中に跳ね飛ばされた。

俺は壊れた窓ガラスから雅樹の様子を伺う。

雅樹は両手に机を挟み、かろうじて立ち上がろうとしていた。

「ぐぅ。」

目は虚ろ。

あとガラスで切ったのだろう。制服の各所は破れ、むき出しになった皮膚からは血が流れていた。

俺は窓を飛び越え雅樹の所に走る。

喧嘩は相手が気を失ってまでの勝負。

しのびないが、今のうちに追い打ちをかけて勝負を決める。

しかし、俺は油断していた。

相手は雅樹。

雅樹は俺が間合いにはいると右足を俺の急所に向かって跳ね上げる。

金的?

俺は寸前のところ、両手でそれを防いだ。

俺は雅樹の方を見る。

そこには、雅樹の頭。

がら空きになった俺の顔面に雅樹は机の反動を利用し、頭突きをする。

「がっ」

俺の鼻から鮮血が飛び散る。

俺は倒れはしないものの後に下がる。

鼻からの鮮血。

だが見た目ほどダメージはない。

瀕死の奴の攻撃。

それもそうか。

むしろあの急所を狙った金的こそ、あいつの最後の切り札だったに違いない。
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