側にいる誰かへ
俺は手で鼻血を拭うと雅樹の方を見た。

雅樹はも立ち上がり、俺の方を見ている。

雅樹は口から、大量の血を流していた。

「ゴホ。」

雅樹は吐血する。

顎が砕けたのかもしれない。

これ以上は。

俺は背を向け立ち去ろうとする。

「待て。」

雅樹が叫ぶ。

もう良い。

お前はもう闘えないだろ。

勝敗誰の目から見ても明らかだった。

「もう良いだろ。終わり…。」

「負けるかよ。」

雅樹は俺が話し終える前に言葉を挟む。

俺が振り返るとその眼光は鋭く、まだ光を帯びていた。

俺は思わず呟く。

「すげぇな。」

俺は覚悟を決める。

男の中の男に手を抜くわけにはいかない。

すでに俺の頭の中に徹の事はなかった。

向き合うこいつに。

この男に。

全力をつくさなければ。

俺は雅樹に構える。

一瞬雅樹が笑ったような気がした。

雅樹も構えをとる。

向き合う俺達。

いつも互いに背を預けていたはずなのに。

俺は今までこいつの何を知っていたんだろう。

何を知ろうとしていたんだろう。

ふいに徹の事が脳裏をよぎる。

こいつも徹と同じ。

俺の親友。

こいつが雅樹のように俺の前からいなくなってしまった時、俺はまた後悔してしまわないのだろうか?

この勝負の勝敗をつける事はこいつとの決別。

今ならまだ戻れるのでは?

俺は雅樹の目を再び見る。

その目には、一点の曇りもない。

そうか。

俺が止めたいと思えるのは俺が優位に立っているから。

ここで喧嘩を辞めれば、雅樹に残るのは屈辱だけ。

そうか。引けないよな。

俺達は男通し。

こいつの拳に答えないと。

俺は覚悟を決める。

この勝敗がついた時、俺達はもう親友ではないだろう。

願わくば、こうなる前にもっとわかりあおうとしていれば。

俺は拳を握り込む。

二人はどちらともなく、互いに突進する。
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