側にいる誰かへ
私は、徹の母親だ。

だけど女でもある。

今の私には、側にいてくれる誰かが必要だった。

徹の代わりになる誰かが。

富塚君…。

初めはこの子が徹のように思えた。

側にいると徹がいてくれるみたいだった。

この子の優しさはきっと子供の優しさ。

いつかは、悲しみも冷め、私の側からいなくなる。

そう思っていた。

でも彼はいなくならなかった。

徹の供養だけでなく、私を支えてくれようとした。

その優しさは、私が考えていたものより深いもの。

もしかすると大人以上の優しさかもしれない。

いつしか私は彼を意識するようになっていた。

徹の親友ではなく、一人の男として。

でもそれではいけないと思い、昨日の夜、彼に学校に行くように促した。

これ以上、側にいられると私は彼を頼ってしまうから。

彼は今日の昼、家を出て行った。

次にいつ会えるかは、もうわからなかった。

遠ざかる彼の背中の後ろで私は涙を流していた。

その時に気づく。

私にとって彼はすでになくてはならない存在だった事を。

でも彼は徹の親友。

徹の見ている前で、私は女になるわけにはいかない。

そう諦めていた。

でも今、目の前に彼がいる。

寂しい。

この先も彼に側にいてほしい。

彼の傷を手当てする私はすでに女になっていた。



傷の手当てが終わり、俺は布団に横になっていた。

枕もとには彼女がいる。

その時間は俺にとって幸せだった。

話したい事はいろいろあったが、今は彼女が側にいるだけで良かった。

俺はまぶたを閉じる。

俺が眠るのを気遣ってか、彼女がその場を離れようとする。

俺は咄嗟に彼女の手を握る。

彼女が驚き、こちらを見る。

「側にいて。」

それは俺の本心だった。

彼女は手を握られたままその場に座る。

そして、もう一方の手で俺の頭を撫でてくれた。

彼女は笑顔を浮かべ、その顔はすごく穏やかに見えた。

嫌な事を全て忘れていくよう…。

俺は静かに眠りにつく。

握られたその手は、

俺にとって

私にとって

とても暖かいものだった。


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