側にいる誰かへ
そんな俺達の会話を彼女が割って入る。

「大丈夫です。富塚君はきっと家に帰らせますから。」

彼女は二人に言う。

「何言ってんだよ。俺はここにいるよ。」

「いいから。両親の言う事を聞くの。」

俺は我慢できなくなり、彼女の腕を掴み廊下に出た。

「美里…。」

俺は思わず彼女の名前を呼ぶ。

俺には彼女の気持ちが理解出来なかった。

「何であんな事を…。」

彼女は俯き答える。

「お父さんの行ったとおりだよ。私達は世間から認められない。私は徹の母だもん…。」

「そんな事関係ない。」

俺は彼女の両肩を掴む。

「立場とか境遇とか。そんなものどうでも良い。俺達が幸せかどうかは他人じゃなくて、俺達が決める事だろ。」

「富塚君…。」

彼女は俺の目を見つめる。

彼女の目は母と女の間で揺れていた。

「私は富塚君の両親の気持ちもわかる気がするの。きっと徹が君と同じ立場だったら私も反対する。母親として。」

彼女は言葉を続ける。

「あなたの両親はあなたの事を一番愛している。あなたはそう感じていなくても。それが親なの。もし、あなたがここで私を選んでしまったらあなたは、大切なものを失う。」

「大切なもの…。」

「徹を亡くした今だからわかるの。親を。本当の両親の気持ちを見て。向き合おうとしてあげて。」

俺は言葉に詰まる。

向き合うか…。

俺は彼女を誰よりも近くで見てきた。

彼女の息子を想う気持ちは何よりも強い。

それは本当の親の姿。

今の俺なら彼女の言う事も少しわかる気がする。

今まで…。

俺の両親も彼女と同じように愛情を自分に向けていたとしたら…。

俺がそれを見ようとしなかっただけだとしたら…。

俺は最低以外の何者でもない。

俺は自分の気持ちを整理する。

彼女を想う気持ちと。

両親を想う気持ち。

彼女を大切にするにしても、今日は家に帰るべきなのかもしれない。

理由はどうであれ、ここまで両親は来てくれたのだ。

俺の両親は、きっと息子を亡くした母のもとから俺を取り戻すためにここへ来た。

その覚悟は愛情以外の何ものでもないから。
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