側にいる誰かへ
チャンスは奴が気を抜く時。

すなわち、店員が奴に金を渡す瞬間。

俺はその瞬間を静かに待つ。

右拳に全力を込めて。

刃物は約30センチって所か。リ−チに支障はないな。

店員がレジの金を出し、男に渡そうとする。

男はその金に手を伸ばす。

瞬間、俺は棚から飛び出る。

初めに気づいたのは店員。

店員の顔がこちらを向く。

男も店員の反応に異変を感じ、こちらを振り向く。
振り向いた男の視界に映った光景は、何の変わりもない店内。

俺はすでに男の懐にかがんでいた。

俺はまず、男の右手のナイフを左肘ではじきとばす。

ナイフは男の手を離れ、はるか上方へ。

男はこちらに気づき、下を向こうとする。

俺は男が下を向ききる前に、右拳を男の腹にめり込ませる。

ゴン。

しまった。

俺は男と距離をとる。

今の感触。

奴は腹に鉄板を入れていた。

くそ。

向き合う俺と男。

男の右横にはレジごしに店員。

ナイフは男のはるか後方に落ちている。

男はこちらを見て、硬直していた。

間違いない。

こいつの持つ凶器はナイフ一本だけだ。

もし、他に凶器を持っていたらそれをすぐに出すはず。

他の凶器の可能性を考え距離をとったが、これなら十分対応できる。

奴の次の行動は、落ちたナイフを取るか、店員を人質にとるかの二択。

しかし、ナイフははるか後方。

次の奴の手は必ず店員を人質にとろうとするはず。

なら、あいつが右に動いた時、左のハイキックで仕留める。

俺の蹴りなら、ヘルメットごしにでも威力は伝わるはず。

俺は、男の動きを待つ。

男はナイフを無くし、俺に恐怖を感じている。

その証拠に俺に威嚇してこない。

自分が優位に立てる言葉が見つからないのだ。

なら、相手がビビっている内に先手を取るぞ。

俺は、男を睨みつける。

だが俺は一つの矛盾に気がつく。
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