側にいる誰かへ
こんなに几帳面な男が凶器を一つしか持っていないなんて。

俺が男に迫ろうとした時、背にしていた自動ドアが開いた。

俺は早く気づくべきだったのだ。

共犯者の可能性を。

バン。

後ろから銃声が鳴る。

その弾丸は俺の胸を的確にとらえた。

弾が俺の胸を貫通する。

俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。

だが、銃声と胸から流れる大量の血で自分の置かれている状況を理解する。

おそらく後ろには、銃を構える共犯者。

その銃には十分な弾が残っている。

俺をためらいなく撃ったその性格からして、残忍、無慈悲な性格。

俺が振り向けば、二発目を撃ってくるだろう…。

それにこの傷。

一瞬の事で痛みはまだ感じないがおそらく致命傷。

富塚の中に押し寄せる

敗北心と

死の恐怖。

彼はこれらの感情を気持ちで押さえていた。

普通の人なら、恐怖で震え上がるところ。

しかし、数多くの喧嘩を経験してきた彼にとって、これらの感情は初めてではなかった。

彼は次の一手を考える。

生き残り、勝利に繋がる一手を。

彼が考えた最良の一手は、相手を油断させる事。

富塚はその場に勢いよく、仰向けに倒れる。

もちろんこれは演技。

二発目の銃弾を撃たれないため。

自分には、抵抗する力がない事を強調づけるため。

彼は仰向けの状態から、様子を伺い次の一手を探す。

しかし、富塚に誤算があるとすれば、彼の傷は彼を確実に死に近づけていた。

意識が歪む。

気を抜いてしまえば、眠ってしまいそうだ。

ここからの勝負は、「死」との闘いでもあるのだから…。



朦朧とする意識の中、微かに共犯者の顔が見える。

そいつは、目つきの悪い、20代の男。

もう一方の男とは対称的に変装は何もしていない。

性格は奴と真逆のおおざっぱ。

だから、俺にもとどめをささない。

富塚の予想通り男は倒れていた富塚を素通りし、もう一人の男と口喧嘩を始める。

まだ、勝機はある。

富塚は今の状況をしっかり見すえていた。
< 40 / 52 >

この作品をシェア

pagetop