側にいる誰かへ
そいつらはしばらく口論していた。

バカな奴らだ…。

警察が来る事を考えていないのか。

しかし、俺からしても、状況が動かないのは良くない。

こうしている間にもいつ意識がなくなるかわからないからだ。

俺は指を動かそうとしてみる。

動け。

しかし、頭がどんなに命令しても体が動かない。

俺は気が付く。

胸からの出血が、俺の手元まで血溜まりを作っているいる事を。

そういや、こんなに血を流した事はなかったな。

死ぬんだろうな。

このまま…。

まあ、それもお似合いか。
少なくても俺は、これが自分の死だとわかる。

自分が死ぬ事さえも、予想出来なかった徹にくらべれば幸せかな。

眠い…。どうしても。

俺は目をつむる。

暖かい。

体の力が全て抜けていくようだ。

俺は自分の死を受け入れる。

徹、俺を迎えてくれるか?
……。

父さん、母さんごめん。

……。

雅樹、いろいろごめんな。

美里。幸せにな。

みんないろいろごめん……。

バン。

銃声?

俺は最後の力を込め、微かにまぶたを開く。

俺の目に映ったのは、

頭を撃たれ、倒れている男と男に銃を向けられている店員。

倒れた男は絶命していた。

男は銃口を店員に向けたまま頭をかく。

「まあ、顔を見られたしな。悪いけど死んでくれや。」

女性店員は硬直して動けない。

こいつ殺すのか。

俺の前で人を。

刹那、俺の頭に徹の声が聞こえる。

「守るんだろ。その拳で…。」

気づけば、俺は立ち上がっていた。

痛み…?

関係ねぇよ。

俺は右拳を振り上げる。

しかし、男がこちらを振り向いた。

対面する俺達。

男が俺の眉間に銃口を向ける。

あとは引き金を引くだけ。

男は笑みを浮かべた。

瞬間、周りがスローモーションになる。

徐々に引き金に手をかけようとする男。

男の顔面に右ストレートを叩き込もうとする俺。

駄目だ。届かない。

くそ。俺が負ければ彼女は死ぬ。

守りたい。

俺はどうなっても良い。

俺の手で守りぬくんだ。
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