側にいる誰かへ
退院して3日後、俺は久しぶりに学校に行った。

今日は金曜日。

この3日間、平日にもかかわらず、学校に行かなかったのは、俺がいろいろな場所から呼び出しを受けていたためだ。

強盗、いや仲間を殺したあいつは殺人犯か。

ともかく、そんな奴を捕まえた俺は、世間から多くの注目を集めた。

取材、インタビュー、表彰。

以前の俺では、考えられない事が周りで起きた。

学校側はこれを、校名をあげるための良いプロモーションだと考えた。

そんな学校は、俺が休学の延長の事を相談した時、二つ返事でその事を了承してくれた。

本当に都合の良い奴ら。

そして今日。

学校に通学した俺は、周りの反応に驚いた。

同じクラスの奴。

他のクラスの奴。

教師達。

その誰もが、俺の側に寄って来ては、俺の事をもてはやした。

「凄い。」

「カッコイイ。」

「その時の話を聞かせて。」

あんなに俺を疎んでいた奴らが…。

結局、社会の評価はげんきんだ。

俺を良しとするマスコミの報道に影響されたこいつら。

マスコミが俺を批判すれば、こいつらの対応は百八十度変わるだろう。

でも真実は、

俺が強盗を捕まえようが、何をしようが俺は俺だ。

こいつらはそれに気づかず、俺の上っ面しか見ていない。

こいつらは、俺だけでなく他の人に対してもそうなのであろう。

俺は拳を握りしめる自分に気が付く。

これじゃ駄目だな…。

以前の俺なら、都合の良いこいつらにキレていたかもしれない。

でも、そんな事をしても悲しいだけだ。

暴力はその場にある全てを否定し、相手を傷つけ、最後には自分の全てまでを奪う。

そんな事はもう嫌だ。

一度全てを無くした自分だからわかる。

俺は少し俯く。

でもわかったのは、絶望だけじゃない。

雅樹は最低だった俺を許してくれた。

両親も彼女も徹も俺を認めてくれた。
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