それでも君と、はじめての恋を
「渉ってば、むくれちゃって~。そんなに経験したいなら俺が相手になっ……」
「純なんか絶っっ対、イヤッ!!」
かけられた言葉の途中で拒否をすると、葵がギロリと純を睨んだ。
「渉に手ぇ出したらぶん殴るからね」
「俺、女の子には優しいって評判なのにぃ〜」
誰か今すぐコイツの口の中にジャリ石詰めて。
純の言葉に、あたしも葵も呆れてものも言えない。
「はーあ……恋したいなぁー」
頬杖をつきながら窓ガラスの外を見て呟くと、葵と純の視線を感じた。
廊下には、同じクラスの女子と別のクラスの彼氏が立ち話をしている。
朝から、なんて幸せそうなふたり。
――恋がしたい。
明るくて、かっこよくて、笑顔が可愛くて、ありきたりだけど、優しい人と。
いつか恋をして、笑いあって、寄り添って、手を繋いで……学校が同じだったら最高。そしたら一緒に帰れるでしょ?
幸せかなぁ……幸せだよなぁ。
今の生活に不満があるわけじゃないけど、きっともっと楽しくなると思うんだ。
恋をしたら毎日がキラキラしそう。
そんな日々を送ってみたい。
それが恋を知らないあたしの、ちょっとした、夢。