それでも君と、はじめての恋を
▽友達と好きの距離
――1日の始まりは、1分も無駄にできない。
起きたらすぐに洗面所へ直行して顔を洗う。化粧水、美容液、乳液を順につけながら、リンパマッサージ。化粧下地を塗ったあとは、ホットカーラーを髪全体に巻き付ける。
「何回見ても面白い頭だな、渉」
「うるさいよ!」
頭にホットカーラーを付けたまま朝食を食べていると、起きたばかりのおにぃが鼻で笑う。
「女って大変だよなー」
誰のせいでこうなったと思っているのか。
そう口には出さず、キッチンに立つお母さんにごちそうさまを告げて腰を上げた。
「渉! お皿くらいさげなさいよ、もうっ」
毎朝聞いてるお母さんの文句を聞き流しながら、小走りに階段を上り2階の自室へ向かう。
部屋に入って四角テーブルの前に腰掛ければ、もう自分の世界。
大好きなラブソングを流しながら、鏡の中の自分とにらめっこ。
「ファンデ、ファンデ……」
2色混ぜ合わせたファンデを時間短縮のために両手で一気に塗り、スポンジで馴染ませる。
アイブロウで眉毛の形を整えたら髪色と同じ眉マスカラを塗って、ラメが入ったブラウンのアイシャドウで瞼にグラデーションを入れた。
ピンクのチークを頬に乗せ、ビューラーで睫毛をカールさせたら黒いアイライナーで目を囲む。
慣れた手つきでそこまで終わらせて、一旦休憩。
鏡の中の自分はまだ、ぼんやりとしていた。