それでも君と、はじめての恋を
バンッ!と勢いよく部屋を出ると、後ろからおにぃがあたしのコートを持って追いかけてくる。
「渉! 髪! 髪がくるっくるのままだぞ! どっちかっつーと、爆発!?」
「走ればおちつく!」
「スプレーは!? ワックス! てかマスカラは!?」
「学校でやるからいい!」
バタバタと階段を降りて、玄関でおにぃからコートを受け取る。
「それでモモに出くわしたらどうすんだよ! へこむくせにっ」
シューズラックの上にある鏡に映った自分は、中途半端なメイクにカーラーを取ったままの巻き髪。
あたしだってできるだけ綺麗にしていきたいけど、そんな時間はどこにもなくて泣きそうになる。
「モモはきっとメイクにも興味ないよ!」
分からないけど、今はそう思うしかないじゃんか。
こんな状態のまま電車とか下駄箱でモモに出くわしたら、そりゃへこむけど! むしろ脱兎のごとく逃げるけど!
恋愛に興味がないモモにメイクが中途半端だとか分かるはずもないと、言い聞かせるしかない。
「行ってきます!」
「ああーっ! 渉ーっ!」
ちゃんと履かなかったローファーのせいで転びそうになったけれど、駅まで全力疾走した。
モモに会いませんように、見られませんようにと、心の中で祈りながら。