それでも君と、はじめての恋を


「「セーフ」」


ぜぇっ、ぜぇっと肩で息をするあたしの頭上から、葵と純の呑気な声。


「矢吹、ギリギリセーフな」

「あはは! 渉お疲れーっ!」


本鈴が鳴り響いた瞬間教室に滑り込んだあたしに、安部ちゃんとクラスメイトが声を掛けてくるけれど返事をする余裕はない。


「はいじゃあ、今日も全員そろったなー。6時間目のロングホームルームだけどー……」


いつも出席を取らない安部ちゃんが話し始めて、あたしは倒れるように椅子に座った。


……つ、疲れた……っ!


「ドンマイだよ、渉」

「まぁ全力電車に乗れば疲れるよねぇ~」


家から駅まで走ったというのに結局乗り過ごしてしまったあたしは、生徒の間で全力電車と呼ばれるものに乗るハメになった。


いつも乗ってる電車は普通の各駅停車。それに乗れば遅刻せずに済むんだけど、乗り過ごせば最悪遅刻。


次の電車は快速で学校の最寄り駅まですぐに着くんだけど、問題なのは8時23分着だということ。


駅から学校までは約1.5キロ。


全力疾走して30分まで教室に着かなければ、遅刻になる魔の電車。
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