それでも君と、はじめての恋を
「渉、飲み物買ってきてあげようか?」
教室が騒がしくなったことで、朝のホームルームが終わったことに気付く。
机に伏せていた顔を上げると、葵は財布を持ってあたしを見下ろしていた。
「……ありがと。お言葉に……甘える」
未だ息も切れ切れなあたしに葵は笑って、「冷たいのね」と言って教室を出て行く。
熱い顔を手で仰いでると、純がジッとあたしの顔を見ていた。何?と、聞く気力も出ない。
「渉、寝坊でもしたのぉ?」
……ああ、メイクのことね。
寝坊じゃなくて、モモのこと考えてたからとはさすがに言いたくない。
「そうだよ」
言いながら、鞄の中からポーチを取り出す。
クロスタイプの付けまつげを机に置いて、ビューラーと鏡を持ったあたしを観察する純はいつものこと。
体を純の方に向けて座り直すと、うしろの壁に寄り掛かって鏡を覗くあたしに、黙ればいいのに純は話し掛けてくる。