それでも君と、はじめての恋を
「じゃあ矢吹ひとりなんだな」
資料室に着くなり、待機していた安部ちゃんにあたしがひとりで来たわけを話した。
葵は用事があるからって言ってはみたけど、安部ちゃんからすれば1人でも手伝う生徒がいればどうでもいいと思う。
「親友の為に身を売ったあたしを褒めて」
「えらいえらい」
「純は逃げただけだから、今度超めんどくさい雑用押しつけてよね!」
「分かった分かった」
本当にあたしひとりいればどうでも良さそうだな、この担任は。
「やるよ、ほれ」
何が悲しくて純の髪色と同じココアを飲まなきゃいけないんだと思いながら、温かい缶を受け取った。
「じゃ、コレ頼むな。できるところまででいいから」
「んー。分かった」
安部ちゃんが教室を出て行くのを見送ってから、缶のプルタブを立ち上げる。
教室を見渡すと、テーブルの上には大量のプリントが積み上げられていた。その上から1枚手に取って、眺める。
「……授業で使うプリントか」
これを3枚ずつホチキスで止めなきゃいけないわけね。
椅子を引いて座り、缶をテーブルに置く。
半分やったら帰ろう。そう思って、ホチキスを手に取った。