それでも君と、はじめての恋を
「渉っ!」
穏やかな風がスカートの端を揺らす朝。駅の改札口を通ったあたしは、背後から掛けられた声に振り向く。
「葵! おはよーっ!」
「おはよ。髪可愛いじゃん」
定期を通して歩み寄ってくる葵は、トップの髪だけシュシュで結んでるあたしの髪を褒めてくれた。
「ありがとう」と返して、並んでホームへと歩き出す。
「葵も、まだ新鮮だなー。前髪あるなんて何年ぶり?」
「中1ぶりかな」
葵の茶色いボブは相変わらずだけど、センター分けだった前髪はラウンドバングに変わって、大人っぽさよりも可愛さがぐっと引き立った。
あたしは変わらず、金に近い巻き髪ロング。
「渉はエクステの量増やしたでしょ」
「代わり映えしないけどね。だからちょっとアレンジ、みたいな?」
すでに停車していた電車に乗り込んで、あたしと葵は閉まっているドアの前で向かい合う。
「てか桃井は? まだ風邪?」
「んー。治ったっぽいけど、次の電車で行くって」
「あぁ、全力電車」
フッと笑う葵は、次の快速電車に乗るであろうモモに哀れみを感じてるんだと思う。
全力疾走しなきゃ、遅刻になっちゃうからね。