それでも君と、はじめての恋を
「病みあがりに走れんのかね、桃井」
「や、走らないと思うよ? 多分」
モモは2日前から体調を崩していて、どうやら妹さんの風邪がうつったらしいとのことだった。
大丈夫かな、なんて心配しても、あの鉄仮面はお見舞いを拒否するというまさかの事態。行くと言ってるのに勘弁してとか、逆にこっちが勘弁してほしいよね!
「今日逢ったら、いじめてやるんだ」
「マジで。超楽しみ」
プルルルルッとホームに音が鳴り響き、駆け込み乗車をするサラリーマンや学生に目をやる。閉まるドアから入り込んだ空気は少し肌寒く、でもどこか清々しさで溢れていた。
何だか今日は、いつもと景色が違って見える。
「葵~! わったる~! おっはよ~ん!」
学校の最寄り駅で降り、たくさんの生徒が学校へ向かう中、背後から聞き慣れた間延びする声。
あたしが振り向くと、そこにいたのはもちろん純。……だったんだけど。
「ヘアバンドは!?」
「あ、気付いたぁ~?」
ヘラッと笑いながら近付いてくる純の目印、黒いヘアバンドがなくなっていた。
相変わらずココアみたいな髪色だけど、ヘアバンドがなくなっただけでずいぶん印象が変わる。