それでも君と、はじめての恋を


「あっと、今いないんですけど、安部ちゃ……じゃなくて、安部先生に何かご用ですかっ?」


なんで敬語! テンパッた!


ジッとプリントを見ていた彼は、あたしに視線を戻した。


思わずギクリとして体が強張る。長めの前髪から覗く瞳から、目を逸らせない。彼はそれほどまでに、鋭い目つきをしていた。



――桃井 寶。


集会が終わったあとに噂していた人が……本物が、目の前に……。


同じ1年生で話したことはないけれど、あたしは彼を知っている。


入学当初からかっこいいと騒がれていた彼は、今となっては悪名高く、無口で無愛想で有名だから。


クールと呼べば聞こえはいいけれど孤高の一匹狼で、発せられる近付くなオーラに男子も女子も恐れてる。


それ以上に悪い噂の絶えない彼に近付くという勇者がいないのも、事実。


喧嘩が猛烈に強くて上級生を病院送りにして生死をさ迷わせたとか、危ない方と繋がりがあって夜な夜な歓楽街を徘徊してるってのは、マジ話なんですかね……?


疑うことしかできないのは、そんな場面を見た生徒が大勢いるからだった。


あたしだけでなく全校生徒のほとんどが彼に関わってはいけないと思っている。


「えっと……何か用事なら伝言、うけ、承ります……」


失礼なことをしてはいけないと、なるべく丁寧な言葉使いにしてみたけど、できているかは分からなくて逆に恐怖心が増した。
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