それでも君と、はじめての恋を
「どうぞ」
手を差し出したままモモはそう言って、眉を寄せて口を閉じて変な形に曲げる。
初めて見る表情だった。歯を食い縛ってるようにも見えるけど、痛みを我慢するようにも見える。
「……胸キュン?」
した? それともまさかニヤケそうになったの、我慢した?
モモはあさっての方向に視線を逸らして、でも手は差し出したまま。
「ぶはっ! あははっ! 何ソレ! 今の表情なに!?」
なぜか急におかしくなってケラケラ笑うと、眉間にシワを作ったままモモは睨むようにしてあたしを見た。
「……早くして」
恥ずかしいから?
そんなモモを可愛いなぁって思うし、面白いなぁって思う。無表情とか眉を寄せる姿はすぐ思い浮かぶけど、モモがきゅんとしたりニヤける表情なんてまるで想像つかない。
ククッと笑いながら、モモの手に自分の手を重ねた。やっぱり冷たいモモの手。冷え症なのかなと思った瞬間、包まれるあたしの手。
幸せ。今日はいつもより、幸せ。
「ぎゃっ!」
急に体がグンッと前に引っ張られて、脳内ピンク色になりかけたあたしの思考は吹っ飛んでいく。手を握った途端、モモがものすごい力であたしの手を引っ張ったから。
それか踏み出した一歩がとんでもない大股だったか。どっちでもいいけど危うく転ぶかと思った。変な声まで出たし。
扱いに気を付けてってあれほど言ったでしょうよ!