それでも君と、はじめての恋を
「そんなんばっかしてたら、また留年の危機にさらされるよ」
「ご、ごもっともです……」
睨み上げるように言われてそう返すと、葵は机に頬杖をついて窓の外へ視線を移す。
やっぱり葵、機嫌悪いなー……。
自分の席に座るモモとあたしの席に座る純もそれは察しているようで、気を使う空気が流れていた。
まあ、葵が機嫌悪いのって大抵いつも彼氏が理由なんだけど。
「……何、七尋(ななえ)くんと喧嘩でもしたの?」
モモの後ろの席を借りて椅子へ腰掛けながら聞くと、葵はムスッとした顔を向けてきた。
「ドタキャンされて最初はしょうがないと思ったけど、今になってムカついてきた」
「え、めずらしいね」
七尋くんがドタキャンっていうのもめずらしいけど、葵が怒るなんてもっとめずらしい。
前にも七尋くんはドタキャンした記憶があるけど、今まで葵は怒ったことはなかった。
正当な理由というか、仕方ないって思えるものだったから……だよね?
「何でドタキャン? 急にバイト入ったとか?」
予鈴が鳴っている中で尋ねると、口を開き掛けた葵があたしの背後を見て唇を結んだ。不思議に思って振り向くと森くんがこちらに歩いてくるところで、目が合う。
「あ、ごめん。席借りてたっ」
立ち上がると、ちょうどあたしの前まで来た森くんは笑顔を見せた。
「いえいえ。もういいの?」
「うん大丈夫、ありがとう。純どいて!」
あたしの席に座っていた純を促すと、純は大人しく腰を上げる。