それでも君と、はじめての恋を
「3回!? 今月だけで!?」
驚くあたしにモモは頷く。昼休み、久しぶりに4人でじゃんけんをして負けたあたしとモモは自販機に向かっていた。
「さっきので、3回目ってこと?」
「多分」
なんと……葵は今月だけで3回も七尋くんにドタキャンされてるなんて。
それはいくら葵でも怒りそう……。
「でもよく聞けたね。葵って怒ってる理由話すの嫌がるのに」
「……池田が」
あぁ、しつこい通り越してウザいくらいに聞き出そうとしたのね。
その様子が簡単に想像出来て、いくつかモモに質問するとやっぱり3回中2回のドタキャンはバイトが理由だった。
七尋くんがシフトを代わってほしいと頼まれて引き受けることは以前もあったし、葵もつまらなそうだったけど怒ったことはなかったことを思い出す。
……てことは、今回はそこそこ怒りたくなるような理由だったってこと?
何だろ。レポート間に合わないからとか、そんな理由かな。
考えていると視線を感じて、隣を見上げると案の定モモがあたしを見下ろしていた。
「ん? ごめん、今何か言った?」
「何も」
じゃあ見てただけ? 何で?
そう訴えるように首を捻ると、またモモは真似をするだけで。たださっきと違ったのは、少し微笑んでいたということ。
「な、何?」
「何でも」
でも今笑ったじゃん!
突っ込む前に飲み物を買っていた生徒がいなくなり、モモは自販機と向き合ってしまう。
もう一度聞けばいいのに、あたしは黙って飲み物を2本買うだけ。
貴重な笑みを見せられると、どうしても心拍数が上がる。柔らかい耳朶に触れれば、揺れるロングチェーンのピアス。
その感触に漏れた溜め息は色をはらんで、宙に混じってとけた。