それでも君と、はじめての恋を
「葵はちゃんと七尋くんに言わなきゃダメだからね!」
「ハイハイ。分かった分かった」
口の端を上げる葵に反して口を尖らせながら、お弁当に箸をつける。モモと純も時間がないことに気付いたのか、遅めの昼食を取り始めた。
「あれ? 安部ちゃん! どしたの~」
純の声に振り向くと、担任が教室に入ってきたところ。
どうしたんだろうと思ってると、安部ちゃんは「あー全員はいないか」と教壇にも上がらずプリントを持つ手を上げた。
「今日のロング林間学校の話だから! 早退すんなって今いない奴にも言っとけよ!」
それだけ告げてさっさと教室を出て行く安部ちゃんに、クラスメイトがざわめく。
……そういえば、そんな行事があったっけ?
「林間学校とか忘れてたわ」
「あたしも」
葵に同意しながらも、すでにワクワクしてる自分がいる。
「どうせ登山とかでしょ~。俺、参加したくな~い」
「じゃあ来んな」
バッサリと言う葵の言葉を聞きながら、あたしはチラリとモモを盗み見た。興味無さそうというか、面倒くさそうというか……無表情でどうとでも取れちゃって分かんない、けど。
「モモ」
ゆらりとあたしに視線を移した瞳に、笑顔を向けた。
「林間学校で必要なものとか、一緒に買いに行きたい」
デートしたいな、なんて。ちゃっかり行事に乗っかろうとするあたしに、モモは少し首を傾ける。
「いつ?」
やった!と心の中でガッツポーズをして、モモの私服姿を想像するだけで堪らなく嬉しくなった。
「放課後までに考えとく!」
それだけ言ってあたしは再び目の前にあるお弁当と向き合って、だけど心は先へ先へと急ぐ。
放課後、デートの前日や当日、林間学校。
モモがいるだけで何気ない毎日が眩しくて、特別な時間になるよ。
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