それでも君と、はじめての恋を


「……渉も」


ぽつりと呟いたモモの言葉はちゃんと耳に届いたけれど、どこか気恥しさを含んでいた。


「え? かっこいい?」

「や、……そっちじゃなくて」


声音で動揺してるのが伝わる。腕を組んで再びどこかへ目を逸らしてしまったモモは「何でもない」なんて。


そんな風に言われてしまったら、どうしたって聞き出したくなるじゃん。


「そっちってどっち?」

「……」

「ねえモモ」

「……なんでもない」


顔を覗こうとすると更に顔を背けるモモ。なんて強情なの。


「可愛くない?」


まるで誘導尋問のように尋ねるあたしも大概強情だけど、朝から悩んでいたんだから少しくらい褒めてほしい。


数秒の沈黙の後、モモが無表情であたしと目を合わせてそのまま視線を下へと向けた。


服装を見たってことは分かっていて、再び混じった視線にぴくりとお腹の底が震えた気がした。


「寒くないの?」

「…………」


真顔で表情が固まったあたしに、モモはそろりと顔を背ける。


おかしいよね。

あたし、可愛くない?って聞いたはずなのに、答えが寒くないの?って聞き間違いだよね。


「ちょっとー! なんでそうなるの!? 女の子のお洒落は時に寒さを我慢しなきゃいけないの!」


確かにちょっとまだ寒いけど! 正直モモが可愛いなんて言ってくれるとは思ってなかったけど何かもっとこう、他に言い方があるでしょ!


せめて髪型だけでも突っ込んでくれればいいのに! 巻き髪を高い位置で結んで逆毛立ててふわっふわにしてもらったんだけど!
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