それでも君と、はじめての恋を
「……買い物じゃないなら、何?」
トク、トク、と静かに速まり出した鼓動は何かを期待していて、モモが答えずに歩き出しても消えることはない。
だってモモはまだ、「何でもない」って言ってない。
ビルから外に出ると空は薄暗くなっていて、目の前に見えた駅の文字看板は淡い光を発していた。
今日はほんとに行動範囲が狭かったなと思っていると、「4月に」というモモの声に顔を向ける。
「4月に?」
「……約束してて」
「誰と?」
「店長と」
「何を?」
「……渉を」
「え、ごめん。意味分かんない」
そう言ってから、モモが言い辛そうに、気恥しそうにしていた理由に気付いてしまう。
気付いたけれど、繋いでいない方の手をグーにして、咳き込むように口を覆うモモに、また鼓動が速まって何も言えない。
ジッと見つめるあたしと極力目を合わせないようにしていたモモは、決心したのか視線をかち合わせる。
「……彼女連れてくって、約束してただけ」
ああ惜しい。約束、までは目を見て言えていたのに。
いつかそんな言葉も、最初から最後まで目を見て言えるようになってくれるかな。そんなこと大して重要じゃないんだけど、頑張ろうとしてくれたのが嬉しかった。
「そうだったんだ」
じゃあ……あたしは、店長にお披露目されてたのか。
紹介というほどモモはあたしについて何も説明してくれなかったし、結果店長に辱められて終わった感じだけど。
約束していたなら最初から言ってくれればいいのに。どっか抜けてるっていうか、段取り悪いっていうか。
そもそも紹介するなら先に家族が普通じゃないのかな? まさかそんなに仲良しの人がいるなんて全然知らなかったし、アクセサリーショップの店長って。
ほんと、分かり辛い。だけど、そんなとこも好きだなぁ……なんて。どこまでもモモに甘いな、あたしは。