それでも君と、はじめての恋を



旅館から徒歩15分ほど離れた場所にあるキャンプ場。今日の夕食はみんなで協力しながらカレーを作る、いわゆる飯盒炊爨だった。


「「…………」」

わいわいと賑わう炊事場の中やその周辺は、実際よく見るとザワザワとしてる。ヒソヒソと言ったほうがいいかもしれない。


「あれって桃井寶だよね……」
「超意外……」
「包丁似合いすぎだろ……」


オイ!!

女子と男子の会話を耳に入れて心の中で突っ込んでいると、隣にいた純がまさに可笑しいといった感じで笑っていた。


「渉ーっ!」

バシッ!と純の背中を叩いたところで、誰かに呼ばれる。


振り向くと、1年生の時もクラスメイトだった子たちが駆け寄ってくるところだった。


「ちょっとちょっと! 彼氏料理してるけど、どうしたのアレ!」

「すごいテキパキしてるけど!」

「もうその話はいいってー……」


純と一緒に飯ごうで炊いてるお米が出来上がるのを待っていたあたしはガックリと肩を落として、近くに座ったクラスメイトに眉を寄せる。


「いやだって意外すぎるでしょ!」

「葵がやってるならまだしもさー、桃井寶がカレーの具を炒めてるってどうよ!」

「失礼だな! 炒めるくらいモモだって出来るわ!」


ていうか正直あたしより料理うまいよね!


「もうそこら中、桃井寶の話題になってるよー。あの暴君が!みたいな」


アハハと笑うクラスメイトは1年生の時ほどモモが噂通りの人物だとは思ってないようで、2年生で同じクラスになってからは必然的にあたしの彼氏として話題に出るようになった。


他の生徒は未だにモモを避けてるけど、友達と彼氏の話を出来るのは正直嬉しい。


「まあしょうがないよねぇ。桃井自体、行事に参加するのも珍しいみたいだし〜」


純の言葉に頷くクラスメイトに、確かにそうかと思う。

1年生の時は存在を知ってるくらいで探すこともなかったから、参加してたとしても行事で見掛けた記憶がない。


出逢った頃には学校行事、全部終わってたもんなぁ……。
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